衒学屋さんのブログ

-Mr. Gengakuya's Web Log-

「令和大嘗会雑考」――資源活用事業#13

植戸万典(うえと かずのり)です。一年が経つの早い、というセリフは毎年聞いているような気がしますけど、今年は特にその思いが強い気が。

今年の疫禍は、神社の社頭や祭礼もだいぶ様変わりさせました。
それまで先進的な例とされていたWebによる神社の活動やキャッシュレスの問題、神賑いや直会の無い祭礼の斎行等々、どれほどそれ関連のニュースを目にしたかわかりません。食傷気味なくらい。
そういえば、GoToトラベルの地域共通クーポンも使える神社があるようですね。一応、無償譲渡や寄附行為には使用できないものなので、当然ながら「お守りなどを受ける際に納める社寺への喜捨」にもできないのですが。
使えるとすれば、物品販売や博物館の入館料とかでしょうか。この辺、20年前の地域振興券と同じような扱いのようです。
こうしたムーブメントが非常時だけの対応になるのか恒常化するのかわかりませんが、全く元通りになるということは恐らくないでしょう。

今回は、令和元年11月18日の『神社新報』に書いた「杜に想ふ」欄の「令和大嘗会雑考」を再掲します。
歴史的仮名遣ひを現代仮名遣いに直しているのはご理解の通り。

コラム「令和大嘗会雑考」

 月日は百代の過客だ。まだまだ先と思っていた大嘗祭も斎行され、陛下は神宮へ御親謁になる。伊勢行幸は、古い即位儀礼では当然なかったが、一方で由奉幣の他、平安時代からは式年遷宮の神宝使とも重なる「大神宝使」が、他の二十二社や諸国一宮などへと共に遣わされていた。
 万事に亙る不易流行は、礼典にも及ぶ。朝儀史を概観しても変不変さまざまであり、年初の四方拝からして現在の宮中祭祀と古代の年中行事ではその様相も異なる。
 それは季節毎のイヴェントも変わらない。日本でも盛んとなったハロウィンもその受容は最近だが、今や商業的にも伝統行事に勝る国民的な「祭り」となった。冬至よりも南瓜は消費されてはいまいか。これも遡れば欧洲に土着の収穫感謝の民俗で、本来はキリスト教会の行事ですらない。日本だけが宗教に寛容な社会というのは烏滸がましい。
 平安絵巻とも形容された即位礼。古来の装束を召された陛下の前で現代の礼装をした首相が万歳を挙げる様は、平成度からのことだが、日本の今昔を繫ぐ象徴的な次第だった。斯かる細かな変化は勿論、長い歴史のなかではその時代なりの礼典や、おこなわれなくなった儀式も多い。神宮親謁が近代の新儀なら、古代には一代一度の仏会もあった。儀式の意義とそのあり様は、挙行の有無も含め、当の社会の要請に根差してゐる。
 そう考えたとき、大嘗祭はもとより各地の秋祭りを、農耕社会の収穫儀礼と説き続けることがいつまで有効か悩ましい。農業人口の激減した時代、大半が第一次産業に従事していた頃と比べ、新嘗祭の意義は疎か、多くには「秋祭り」が収穫感謝である意義に果たしてどれほどの実感が伴うだろう。大嘗祭は無論、地域の祭祀を未来にも遺してゆくには、それらの本質を時代に副った説明に落とし込むことも必要ではないか。今年は「祭日」とならない勤労感謝の日も、既に法文から「勤労をたつとび、生産を祝い、国民たがいに感謝しあう」であって、働く父母への感謝の日と解される向きさえある昨今だ。
 便利な世の中となり、労働の対価は銀行振込、売買もキャッシュレスで可。古く働きの成果として得ていた実りは、媒体としての貨幣となって、今は実体のない数字に価値が見出される。神前でもお供えは「初穂料」であるし、電子マネーのコード決済などを賽銭に用いようとする社寺の動きもあった。尤も、某ペイなどの規約では代価のない寄附行動は認められていない筈だが。
 庭積机代物もそうであったように、人は自ら得た実りを感謝や祝福の意を込めて神前に捧げ、祭りをおこなってきた。その実りに「実」が伴わなくなってきた現在、次代の祭りはどう変わり、変わらないのだろうか。

(ライター・史学徒)

※『神社新報』(令和元年11月18日号)より

「令和大嘗会雑考」のオーディオコメンタリーめいたもの

昨年は大嘗宮の一般参観にも並びました。懐かしくもあり、感慨深くもあります。
令和の大嘗宮のあり様については方々からご注文も多かったようですけど、実際に拝観した感想としては、それより古代史専攻としての興奮の方が勝るものでした。建物としては古式のはずなのに新品なため無理に黒木を使っているようでチグハグな印象ながら、それが妙にリアルに感じられたものです。

諸々一家言を持つ方はたくさんいらっしゃいますが、皇室が現代にこうして変わらず続いているのも、あの大嘗宮の参観に行列を作った一家言なんて持たない普通の庶民の存在の方が実は大きいのではないのかなぁと、去年を通じて思ったりしました。

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